紅色のおもい
「あれ、キャプテンどうなさったんですかその薔薇の花束は。」
「ああ…これ?」
その日十二支高校野球部キャプテン、牛尾御門は大きな赤い薔薇の花束を手に部
室を訪れた。
牛尾本人にはよく似合う花束だったが、いかんせん野球部の部室に持ってくるものとしては不自然である。
不思議に思った部員達を代表して聞いたのは辰羅川だった。
牛尾は苦笑しながら答えた。
「クラスの女の子達なんだ。
準決勝出場のお祝いだって…部活に邪魔だって思ったんだけどね。
せっかくだし…。」
断ろうとはしたのだろうが、彼女たちの行為を無下することはできなかったのだろう。
部員達は紳士的なリーダーの性格を慮り、納得した。
「それにしても見事な薔薇ですねえ。」
辰羅川は感心したように言った。
彼の言ったとおり、牛尾がもらった花束は大輪の薔薇ばかりで。
女子高生が買うには決して安くないものであろうことが、簡単に想像できた。
「そうっすねえ、花の事ってくわしくないっすけど…。
すっごく綺麗ッす。」
子津も素直な感想を漏らした。
「それでせっかくお祝いにくれたんだからこの部室に飾ろうかと思ってるんだけど…。」
「…ってこの薔薇をっすか?」
(似合わないと思うんすけど…。)
子津(を含めほぼ全員)はそう思いつつも。
どこかしら天然の主将に突っ込みを入れられなかった。
そんな部員達の思いも露知らず。
牛尾は生け花の心得のある友人に白羽の矢を立てた。
「蛇神くん、これなんとか生けられないかな?」
「…我に?」
頼まれた蛇神は困惑した。
「かような洋装の花は経験がない也…。」
「そうか、困ったねえ…。」
他に誰か頼める人は…と牛尾が考えた時。
部室のドアが開いた。
「ちーす。遅れてすんませーん。」
「あ、猿野くん。遅かったっすね。」
入ってきたのは猿野天国だった。
「あ〜ちょっくら担任にモノ頼まれてな。」
「頼むから退学してくれってか…?プ…。」
「ちゃうわい!!
ただのパシリだよ!!」
「いや威張ることじゃないっす…。」
犬飼のからかいに即効で反応する天国に、牛尾達は腕の花束の事を一瞬忘れて苦笑した。
だが天国にも当然のごとく牛尾の手にある艶やかで真っ赤な物体が目に入った。
「あれ、綺麗なローテローゼっすね。
どうしたんすか?」
こともなく天国は言った。
周りの人間で彼の言葉に反応できたものは少なかった。
「ローテ…ローゼ?」
牛尾は天国の言葉を繰り返す。
「その薔薇の品種名っすよ。
日本で一番多い赤バラです。うまくすれば2週間くらいはもちますよ。」
天国が意外な知識を持っているのに、部員達は呆然とした。
「…猿野くん、詳しいんですね。」
「そっか?お袋が好きだから自然に覚えただけだけどな。」
軽く笑うと、天国は牛尾の花束から一本薔薇を抜いて。
花びらを嗅いだ。
そしてにっこりと笑う。
「主将に似合う花ですね。」
どきり、と牛尾は胸の疼きを感じた。
それは周りの部員も同じだった。
「困ってるんなら明美にまかせなさいv」
「…猿野くん…。」
瞬時に明美になった天国に。
いつもと違っていた空気が元に戻った。
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「これでよし、と。」
「綺麗だね、とても。」
「ええ。いい花を選んでますよ?牛尾センパイのファン。
いいですか?ここに飾って。」
牛尾に手渡されていたローテローゼは、天国の手で野球部の部室に飾られた。
「いいんだよ。これは「野球部のお祝いに」もらったものだからね。」
「…本気だもんなあ…アンタって人は。」
数本余った薔薇を軽くつまむと、天国は花を見た。
「こんなもん「部の祝いに」なんてあげるわけないっしょ?」
だって、これの花言葉は…。
「『情熱』だったら別にかまわないだろう?」
そういって。
牛尾は天国の身体をゆったりと後ろから抱きしめた。
「牛尾せんぱ…。」
驚く天国を尻目に。
牛尾はもう一本余った薔薇を天国の目の前に差し出した。
野球の『情熱』は野球部に…そしてもうひとつは…。
「『こっち』は君に渡すよ。
受け取ってくれるね…?」
天国はゆっくりと笑顔になって。
真っ赤な花びらに唇を落とした。
後日。
牛尾は花をくれた女子達に薔薇のポプリを配ったらしい。
「恋人がお礼に作ってくれた」という言葉とともに。
end
二転三転、タイトルも変更…難産のあげく文章は空中分解…。
しるぶぁ様、1年お待たせしたあげくこんなので本当にすみません!!
本当は犬猿の予定でしたが、花を出した時点で牛猿に変更…。
がんばったんですがどうも意味不明ですね。
めがね猿というよりはハン猿な感じだし、あまりからかってないし…。
素敵リクエストに十分お答えできず申し訳ありません!!
なのにアップする貧乏根性でかさねてすみません(泣
改めましてリクエストありがとうございました…!!
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